(ハーバード大)
Dopamine regulates multiple brain functions including learning, motivation and movement. Furthermore, the striatum, a major target of dopamine neurons, is parceled into multiple subregions that are associated with different types of behavior, such as Pavlovian, goal-directed, and habitual behaviors. An important question in the field is how dopamine regulates these diverse functions. It has been thought that midbrain dopamine neurons broadcast a temporal difference (TD) prediction error signals to drive reinforcement learning. However, recent studies have found more diverse dopamine signals than originally thought. How can we reconcile these results? In this talk, I will discuss our recent studies characterizing diverse dopamine signals, and how these findings can be understood in theoretical frameworks.
※英語で行います。
(自然科学研究機構 基礎生物学研究所)
私たちは、視覚というタスクを脳がどのように達成しているかという問題に興味をもって研究を進めています。このシステム神経科学の難問に対して、人工知能における錯視という視点でアプローチを試みています。
ヒトの視覚は物体の色や形や大きさなどの物理パラメータを忠実に再現しているわけではありません。錯視と呼ばれる現象はその最たるもので、静止している絵が動いて見えたりします。こうした錯視体験は人に大きな驚きをもたらしますが、視覚のメカニズムを探るための有効なツールにもなります。研究対象とするシステムの正常な側面を解析するだけでは理解が進まなかったことが、エラーのような特殊な状況を観察することで研究の進展が期待できるのです。錯視を生じさせる原因は、その種類によって様々であると考えられており、視覚の入り口である眼球のレンズや網膜、そして視床から大脳皮質に至るまでが研究の対象となります。
一方、人工知能は、解決したい課題に基づいて計算システムが設計されます。人工ニューラルネットワークでは、目的関数、学習規則、アーキテクチャの3つの要素が設計の中心です。特に最近発展著しい深層学習のアーキテクチャは、脳に関する知識をベースに設計されたもので、逆に言えば、このアーキテクチャにもっと焦点を当てることで、人工知能をシステム神経科学に役に立つものにできると考えています。
私たちは、アーキテクチャに大脳の予測符号化を採用した人工知能を利用し、人工知能を錯視の「心理物理実験」に供し、その結果をヒトの心理物理実験にフィードバックさせる研究を進めています。本講演では、興味深い錯視の数々をご紹介すると共に、人工知能で数多くの錯視が再現されること、ヒトの心理物理実験と組み合わせることで科学的発見が支援されること、さらには人工知能と遺伝的アルゴリズムを組み合わせることで錯視の創作までもがおこなえること、さらには方法論の現状での限界などをご紹介いたします。人工知能における錯視という視点が、システム神経科学の進歩の一助になると信じ、話題提供をさせていただきます。
(株式会社アラヤ)
意識の機能を工学的に実装することで、抽象的になりがちな意識理論を具体化し、意識と知能の根源的な関係を明らかにする学問的として「人工意識研究」を紹介する。特に本講演では、生物学的な観点より、意識は汎用知能のプラットフォームとして進化してきたというプラットフォーム仮説を紹介する。汎用知能は、過去の経験から得た知識やモデルを応用して、新たな問題に対する解決策を生み出す能力であると定義できるが、その方法として、①モデルに基づくシミュレーション、②機能特化型モジュールの組み合わせによる新規機能の実現、③モデルのメタ表現に基づく新規モジュール生成を提案する。これらの汎用知能の実装案と意識研究の知見を照らし合わせることで、知能と意識の関係について議論する。
1つ目の内的なシミュレーションによる汎用性の獲得は、意識の情報生成仮説 (Kanai et al., 2019)と対応する。この仮説は、意識を持つことの生物学的利点に関する知見に基づいて、意識の中核的な機能は、現在の感覚入力から切り離された反実仮想的な表現を内的に生成する能力であると主張している。生成される表現は、環境との相互作用を通じて学習された感覚・運動の関係性のモデルによって形作られ、意図、想像、計画、短期記憶、注意、好奇心、創造性などな機能の基盤となっている。これらの機能は、意識の特徴である非反射的な行動の実現に寄与している。人工知能研究の文脈では、これは「世界モデル」の獲得と利用に対応する。
2つ目の、機能特化型モジュールの組み合わせによる汎用性の実現は、グローバル・ワークスペース理論に対応する (VanRullen & Kanai, 2021)。グローバル・ワークスペース理論とは、大規模なシステムが情報を統合し、特化されたモジュールを結合することで、より高いレベルの認知や認識を実現するメカニズムを意識の機能と位置づけている。この理論を深層学習で実装することで、これまでの認知モデルを数理的に具体化し、意識のアーキテクチャの実用的意義を明らかにする取り組みを紹介する。複数の潜在的空間(異なるタスク、異なる感覚入力、および/またはモダリティで訓練されたニューラルネットワーク)の間で教師なしで表現の翻訳を行うことで、グローバル潜在的作業空間(GLW)を作り出すことことを提案し、GLWの機能的な利点と神経科学的な意義について検討する。
3つ目の、メタ表現に基づく新規機能の生成は、クオリアをメタ表現とみなす意識の高階理論に対応する。この理論は、意識の発生には感覚情報処理だけでは不十分で、それをメタに表現する必要があるというHOT理論を、人工知能による実装の観点から具体化した。この理論では、機能特化型のニューラルネットを、関数として埋め込んだ空間をメタ表現と考えることで、ネットワークの機能的な意味を解釈することを可能とし、生成モデルと組み合わせることで、新規機能を持つニューラルネットワークを作ることが可能となると提案した。この仮説では、脳内にも脳部位間の結合として存在するニューラルネットワークの入力と出力の関係をメタに埋め込んだ表象が存在すると予想し、この埋め込み空間がクオリアと呼ばれる感覚質の基底となっているのではないかと提案する。
参考文献
Kanai, R., Chang, A., Yu, Y., Magrans de Abril, I., Biehl, M., & Guttenberg, N. (2019) Information generation as a functional basis of consciousness, Neuroscience of Consciousness, Volume 2019, Issue 1, niz016, https://doi.org/10.1093/nc/niz016
VanRullen, R., & Kanai, R. (2021). Deep learning and the Global Workspace Theory. Trends in Neurosciences, 44, 9, 692-704.
https://doi.org/10.1016/j.tins.2021.04.005
The mere existence of free will has been long debated by philosophers with the aid of scientific findings in modern neuroscience. Here we combine theoretical and experimental studies on the matter to clarify where we stand now and discuss how the field of neuroscience may proceed to further assist and settle the grand debate.
After four individual talks, first half from a theoretical aspect and second half from an experimental aspect, we hold a general debate session where active participation from the audience is highly expected.
14:00
Is free will physically implementable? In what sense?
Shogo Tanimura (Nagoya University)
14:50
In support of near conscious free will – quantum neural dynamics, matching law and the generative model as source of consciousness –
Masataka Watanabe (Tokyo University)
15:40
Multiple neural circuits for decision-making and prosocial behavior
Masamichi Sakagami (Tamagawa University)
16:30
The dopamine system mediates reward seeking
Wolfram Schultz (University of Cambridge)
17:30
Debate session
※英語で行います。
脳神経科学研究は従来、少数の細胞や分子の機能、あるいは限られた認知機能に焦点を定めた還元主義的な方法と、現象の解釈を目的とした数理モデル化が主流であった。一方、複雑な脳神経回路に直に対峙するため、近年RNAseq、コネクトーム、大規模神経活動記録といった分子、回路構造、神経発火を高精細かつ大規模に扱う方法が急速に発展し、一個の脳を細部から丸ごと扱えるようになってきた。また、こうした大規模なデータを取り扱うための深層学習を用いた解析法や、神経回路モデルとしての深層神経回路の利用、そしてリアリスティックなモデル化の究極の姿である全脳スケールのスパイキングニューラルネットワークや相互作用する身体・環境シミュレーションの開発も進んでいる。今後こうした還元主義的な精度を維持したまま個体脳全体(さらには身体・環境)を取り扱う「全体性の神経科学」が進むと考えられるが、こうした大規模化の行きつく先は不透明である。
本シンポジウムでは、前半で神経科学の各方面で進む大規模化の流れを、本田、渡我部、五十嵐、平が例示・概説する。次に、こうした分野の協調によって得られる大規模神経科学の将来像を考えるうえで、天文宇宙物理の戎崎が、大規模データ・シミュレーション研究の成功事例である計算天文学における大規模・強度非線形システムの理解について解説し、理論物理学を専門とする鹿野が、20世紀の「コンセプト駆動科学」とその反省と今後の展望について述べる。さらに、計算機科学を専門とする丸山が、神経科学に限らず科学全体の方向性として「高次元科学」の必要性と必然性について述べる。
最後にパネルディスカッションの時間を設け、物理学や情報科学の教訓と全体性の神経科学の将来像につき自由に討論を行い、今後20年に全体性の神経科学で実現可能なことの予測を試みる。このシンポジウムが、全体性に向かう神経科学における様々な議論の起点となればと考えている。
14:30
趣旨説明:平 理一郎
14:35
脳の大規模シミュレーションの現状と未来:五十嵐 潤 (理化学研究所)
14:55
霊長類前頭前皮質のコネクトーム解析:渡我部 昭哉 (理化学研究所)
15:15
空間情報を失った1細胞RNA-seqデータから空間的遺伝子発現パターンの再構成:本田 直樹 (広島大学)
15:35
大規模神経活動記録と全体性の神経科学:平 理一郎 (東京医科歯科大学)
15:55
計算宇宙物理における大規模・強度非線形システムの理解:戎崎 俊一 (理化学研究所)
16:15
コンセプト駆動科学と理論物理学の進展:鹿野 豊 (群馬大学/JSTさきがけ/チャップマン大学量子科学研究所)
16:35
人間の認知バイアスと科学:丸山 宏 (花王/東大/Preferred Networks)
16:55
パネルディスカッション:全員
17:55
まとめ:五十嵐 潤
※その後、大会長の学会終了挨拶を挟んで、飛び入り参加者歓迎の議論を継続予定。
オーガナイザー:平 理一郎、五十嵐 潤